窓から林檎の木を眺めていたなら

Chapter 02

煙草屋の中は閑散としていた、煙草だけでなく飲み物や軽食、簡単な日用品なども扱っている小さな店だったが近所のお年寄りやたまたま煙草をきらしたサラリーマンが立ち寄るくらいで、店の中は一日中スローな時間が流れていた。
 「ああそうだもう少し、やったぞ、ついにきた。あ?あぁ⁉︎何処へ行くんだ。おい!そのコーヒーを取れ!」
ガタッと音がして椅子が倒れた。男が勢いよく立ち上がったためである。男は煙草屋の奥にある物置部屋の窓から通りの向かいにある自動販売機を覗き見ていた。ちょうど今薄いグレーのスーツを着た、どことなく金持ちそうな風体の男が自販機の前から立ち去ったところであった。
「あのヤロウ自分で買ったコーヒーを置いて行っちまいやがった。あんな変なヤロウは絶対出世しないね」

ぶつぶつと独り言を吐きながら男は椅子を蹴飛ばし店内へ戻っていった。男の名前はティム。この店の店主であった。ティムは向かいの自販機にメモ用紙を置きそのメッセージを読んで電話をかけてきた者を騙し笑ってやるつもりでいた。そのチャンスが目前で潰れたので先程の台詞を吐いたのであるが、この30分ほど後かかってくる電話が彼の運命を大きく変えてしまう事は今は知るよしもなかった。