窓から林檎の木を眺めていたなら

Chapter 01

いつもはそんなことしないビルゲイツが今日コーヒーの自動販売機の下に小銭が落ちているのを見てそれを拾いコーヒーを買った。ビルは自分でも何故この様な行動をとったのかわからない、ただ人間とは往々にしてこの様な生き物である。
 自動販売機の中でドリップするタイプのもので、お金を入れボタンを押すと中で豆を挽く音がした。彼はしばらくその音を聞いていたがやがて何か思いたったようにその場を立ち去った。数秒後コトッと音がして紙コップにコーヒーが注がれた。受け取り手のいないそのコーヒーから美味そうな湯気がたっている。
 一部始終を少し離れた煙草屋のかどから見ている者があった年齢は50歳位だろうか長い髪に長い髭、傍に薄汚れた大きな袋を抱え目は虚ろであった。一目見てホームレスとわかるその男はビルが立ち去ったのを見て自販機の方へヨタヨタ歩いて行った。本当はコーヒーより小銭の方が良かったがまあ仕方ない、久しぶりに出来立てのコーヒーでもいただくかと手をのばしたその時、男はコーヒーの入った紙コップの下にメモ用紙の切れ端が挟まっているのを見つけた。男はコップを持ち上げメモ用紙をつまみ上げ目の側まで近づけた。何か書いてある。「あなたは世界一幸運な人です。ここに電話して下さい。0665-877-65¥¥
男は首を少し傾け眼球を上へ向けた。そしてしばらく静止した後コップをそっと元の場所にもどし、その紙きれだけを持ってフラフラと駅の方へ歩いて行った。コーヒーはまだ美味そうに湯気を立てている。そしてその闇と同じ色の表面は生き物のようにゆっくり波打っていた。