マイキーとドクロ団の秘密 25
三人はゆっくりと階段を降り始めた。なんとか足元は見えるが気を抜くと踏み外しそうになる。段々と目が慣れて周りが岩で囲われた円柱状の縦穴である事がわかった。
「ねえマイキー、みんなを見つけて帰ったらさこの冒険を漫画にしようよ。僕が絵を描いて君が話を書いてさ、きっと凄い漫画になるよ。だって今凄い冒険をしてるんだから」
「君は絵が上手いし面白そうだね。きっとやろう。上手に話が書けるかわからないけど、、帰ったら、、帰ったらやろう」
「じゃあ帰ったらそれ、ワタシがパパに言って見てもらうわ。もしかしたら雑誌に載るかもよ?そしたら将来売れっ子漫画家になっちゃうかもね」
みんな心の何処かで思いながらも言わなかった「帰る」という言葉を口に出して三人は希望を見たような気がしていた。押し寄せる不安の波がいつ防波堤を決壊させてもおかしくない状況で、それは子供達にとって大きな支えとなった。
そうこう言っている間に一番下に着いた。
上の部屋の半分位の広さで降りて来た所は部屋の端らしく後ろは直ぐ壁で前方には扉が見えた。三人は階段を降り周りを見渡しながら必然的に前方の扉の方へ歩き出した。すると後ろでカチッと音がして先程と同じモーター音がまた鳴り始めた。三人がドキッてして振り返ると螺旋階段が上へ上がって行こうと地面を離れたところであった。
「あ!あーー!ダメだよー帰れなくなっちゃうーー!」
コリンがいち早く駆けつけ階段の下を引っ張ろうとするが当然びくともしない。
「コリン!危ない!離れて!」
「ちょ。アンタ!危ないわ離れなさい!」
他の二人が同時に叫ぶがコリンが聞かないので二人で引き剥がした。
「嫌ーー。お母さーん帰りたいー。帰路ー。僕の帰路がーーー」
三人が見つめる中、螺旋階段は淡々と上へ昇っていってしまった。そして落胆の表情を隠せない三人に追い討ちをかける様に壁に灯っていた灯りが消えた。代わりに扉の近くに小さな灯りが二つ点いた。
「はー。もう驚かないけど今度は腹が立ってきたわ」
エミコは深いため息をついて扉を睨んだ。
「もしあの扉に鍵がかかってたらワタシもう我慢しないわ。コリン覚悟しなさい」
突然名前を言われたコリンはビクッと体を揺らしエミコの方を見た。エミコは意地悪そうに口角を上げ、へたり込んだコリンを見下ろしている。
「ちょっとー。ちょっとちょっと待ってよー僕関係ないじゃな〜い。扉が開かなかったら僕どうなっちゃうのさー」
「そうね、、もし開かなかったら、、まず正拳突きをそのお腹に一発おみまいして次に空中二段蹴りをそのお腹におみまいするわ。そして鉄槌打ちをお腹にいれて前蹴りを、、そうねぇ、、お腹かな、、さらに手刀でお腹を突いて最後は後ろ回し蹴りを、、どこに打つと思う?」
「お腹でしょ!」
「当たりっ。お腹にきめるわ」
「当たりっ。じゃあないのよ!僕のお腹無くなっちゃうよ」
「あらいいじゃない。ダイエットよアンタ無料でダイエットできるなんて最高じゃない」
「あ、なるほど〜、、、。ってなんないよ!お腹が無くなるって言ったのは例えだよ!本当はただただ痛いだけだよ!」
「あら元気じゃないコリン。それだけ元気ならさっさと行きましょ。もうあの扉しかワタシ達に道はないんだから」
エミコは美しい黒い髪をサッとなびかせて振り向き扉の方へ歩き出した。マイキーはほんの少し。ほんの少しだけ扉が開かない事を願ってみた。
マイキーとドクロ団の秘密 24
部屋に響いた音を聞きコリンとエミコは慌てて立ち上がった。
「マイキーこれは、、!」
低いモーター音と共にギシギシと何か歪んだ様な音も聞こえて来る。
「あ、あれ!」
マイキーは上を見上げ指差して叫んだ。二人はそれを聞き一斉に上を見る。すると天井に吊るしてあったオブジェが徐々に下に降りてきていた。呆然とそれを眺めていた三人にがようやくその全貌を目にし口を開く。
「螺旋階段、、、」
その巻き貝のオブジェだと思っていた物はゆっくり中央の穴の中に入り込み、ここよりさらに地下へと降りる為の道を作り出した。そして一番下まで降り切るとカチッと音がして穴の底らしき所に灯りが一つ灯りモーター音が止んだ。今度は耳が痛くなる程の静寂が部屋を支配する。
「凄い、、」
三人は同じ言葉を同時に発した。そして部屋の中央へゆっくり集まっていった。黒く塗装された木製の螺旋階段が下へ伸びていて三人を下へ誘っている。底に灯った灯りでなんとか足元も見えそうだ。
「信じられない事が次々と起こるわね。私もう何が起きても驚かないわ」
エミコは半ば呆れたような表情をしている。
「本当に、、。でもいったい誰が何のためにこんな仕掛けを作ったんだろう、、」
マイキーは誰に言うでもなく呟いた。
「これ、、まだ下へいくの?ねえ行くの?」
コリンはマイキーとエミコを交互に見ながら言った。
「ここにいてもじきに捕まってしまう。行くしかないわ」
エミコはコリンに言いながら自分にも言い聞かせていた。
「はー。怖いよ。やだよ」
コリンは深い溜め息をつく。
「じゃあアンタだけここに残りなさいよ。そしてあのドミニクに追い回されたらいいわ」
「ド、、ドミ、嫌、、こわい、。いやだ!こわいよ!いやーーー!怖ーーーー!」
コリンが取り乱しはじめたのでエミコは「そいやぁ!」と掛け声を放ちコリンの頬を思い切りビンタした。それでもコリンが恐怖に取り憑かれ一人でうろたえるのでエミコは「そい。そいそいそいそいそいそいそいそいそいそい」と言いながらコリンの両頬を往復ビンタし続けた。
「そいそいそいそいそいそいそいそいそいそい
そいそいそいそいそいそいそいそいそいそい
そいそいそいそいそいそいそいそいそいそい
そぉいやぁー‼︎」
最後にパッチーンと乾いた音が広い部屋に反響した。そしてコリンは我に返った。
「はっ。そうだ、早く行かなきゃ。奴らが来る!」
マイキーはほのかに腫れたコリンの頬を見て自分は常に冷静でいようと心に誓った。
マイキーとドクロ団の秘密 23
マイキーは無意識のうちにこぼれた言葉を慌てて反芻した。
「かぜのかみ いかれるそのめ しゅにそまりいかなるみちもとざされん かぜのうむ いのちをささげしたみのむれ それでもおのがくびさしださぬなら てんからのみちはとざされん、、、」
「風の神 怒れるその目 朱に染まり、、、」
マイキーはもう一度壁の絵を見た。神様が風を吹いている部分。さっきは気付かなかったが描かれた神様の目は赤く無表情ではあるが捉えようによっては無慈悲な裁きを下している様にも見える。
「如何なる道も閉ざされん」
道がない。行き止まり。これは今のこの状況を謳っている?
「風の生む 生命を捧げし民の群れ、、」
風の生む生命。それはこの土地に伝わる、森からの風が町の農作物を豊かに育てているという言い伝え、絵の描かれている順番からも稲の事であろう。それを捧げる人間。絵の通りである。そして最後の部分。
「それでも己が首差し出さぬなら 天からの道は閉ざされん」
己が首とは文脈から人間の首。それを差し出さぬなら道は閉ざされる。逆に言えば首を差し出せば道が開ける?しかし壁画では人間は稲を天に捧げ、首は差し出していない。マイキーは立ち上がり絵の側に行った。そして手で壁をなぞりながら今の考えをもう一度辿ってみる。コリンとエミコは疲れたのか半ば寝そべる様な体勢でマイキーの動きを目だけで追っている。
神、、風、、稲、、民、、首、、天、、道、、
ぽつりぽつりと呟きながら歩きそして人間が描かれた所で立ち止まる。そしてその首の付近を撫でたときマイキーの手に何かが引っ掛かった。
「痛っ」
思わず声を出しそこをよく見てみると首の部分に細い針金の様な突起物があった。
「何だこれ?」
マイキーはそれを引っ張ってみる。すると壁に切れ込みが現れ人の顔の部分だけが前に少し飛び出した。
「こ、これは、、」
マイキーは驚いたが思い切って最後まで引っ張り出した。すると顔の部分の壁がサイコロ状に抜け落ちて代わりに稲の部分が同じくサイコロ状に引っ込んだ。
「驚いた、、。こんなの映画でしか見たことないよ、、」
マイキーは自分でやったにも拘らず呆気にとられその場に立ち尽くしたが思い切ってその外れた頭を空いた部分にはめ込んだ。
マイキーがさほど力を入れずともピッタリと吸い付く様に中に入り込みそして壁の面が揃ったその時何処かでガタンと大きな音が鳴りヴゥゥンとモーターが作動した様な低音が部屋いっぱいに響き渡った。
マイキーとドクロ団の秘密 22
部屋に残った三人は一旦扉の前に座り少し休む事にした。
「ふぅ。色々ありすぎてもう何が何やらわからなくなったよ」
コリンはどしっと腰を下ろし大きなため息をついた。
「確かに。ワタシも流石に疲れたわ。それにみんなゴメン。まさかお婆ちゃんが悪者だったなんて、、」
エミコもため息を漏らし、壁に背をつけたまま地面にへたり込んだ。
「ふふふ。驚いたよね。でも大丈夫だよ。きっと何か訳があるんだよ」
マイキーは空気が重くならないよう明るく返事をした。エミコもコリンも微笑んで頷いている。
「それにドミニクさんにも驚いたよね。あの時は慌ててそれどころじゃなかったけど他にも悪者の仲間がいるのかな」
「そう!ワタシもビックリしたわ。お婆ちゃんの事で気持ちがいっぱいだったけど逃げてる時思い出してゾッとしたもの」
コリンとエミコがドミニクの事を思い出していた。
「ほんとあの大きな体で追いかけられたら恐怖で気絶しちゃうよ僕。ああーって唸りながらさ、ゾンビみたいに」
コリンは自分で言いながら身震いした。
「ワタシの空手も効かなそうだな、、。追ってくるかな」
そう言ってさっき来た通路の方を見るがまだ誰かが来る気配はない。しかし通路が一本道である以上この場にいても捕まるのは必至であった。マイキーはそれを懸念しこの状況を打破する方法はないか座りながらも周りを観察していた。
まずこの扉。開かない扉。壊せないか。道具。使えそうなものは、、、無い。ハッピーに任せるしかないか。奇妙な事だが「ハッピーは助けを呼びに行ったんだ」という確信がマイキーにはあった。おそらく他の二人も同じであろう。
次に天井。見上げると黒い巻き貝のオブジェ。かなり大きい。鉄、、いや塗装された木か、どちらにしてもここから逃げるのには使えない。
そして床の真ん中の穴。直径5、6メートルの丸い穴。柵も何もなく落ちたらアウトだろう。さっき横を通った時下を見てみたが完全な闇で子供がどうこうできる代物ではない。
最後は壁。壁の絵と文字らしきもの。四方の壁にそれぞれ口から風を吹く神様。それを受けなびく稲。そして稲穂を刈りそれを頭上に掲げ首を垂れる人間。さらに正面。さっきマイキー達が出てきた所の壁には魚を縦にしたような形の文字らしきものが一面に描かれていた。
マイキーはぼーっとその文字列を見ていた。そして記憶の片隅に何か引っかかるものを感じていた。それは夜で。温かい。底知れぬ恐怖と包み込まれる様な安堵。感情の混沌の中。確かな眠りに誘われる記憶。そうだ昔お母さんが寝る時に読んでくれた絵本。当時僕はその話が怖かった。人間が神様に怒られて追放される話。その後そこに永遠の楽園が築かれる話。そこに書いてあった、、、。
ちょうどあんな形の文字、、、。
「かぜのかみ いかれるそのめ しゅにそまりいかなるみちもとざされん かぜのうむ いのちをささげしたみのむれ それでもおのがくびさしださぬなら てんからのみちはとざされん、、、」
マイキーの口から記憶の断片がこぼれ落ちた。
マイキーとドクロ団の秘密 21
そこは30メートル四方程の広い空間で天井は高く何か巻き貝に似た巨大なオブジェが吊るされている。四つの壁面にはそれぞれ絵画が描かれており抽象的ではあるが神様、人間、実った稲それに象形文字の様な連続した模様が見て取れた。そして中央には円形に大きな穴が空いており闇の濃さからその深さが伝わってきた。四人(三人と一匹)は言葉を失いそれらを見ていた。
最初に言葉を放ったのはハッピーだった。
「ニャニャニャニャーニャニャ、、、ニャ」
そう言って今来た道のちょうど向かい側、穴を挟んだ対面に向かった。そこには小窓の付いた木の扉があり荘厳な風景に呆けていた三人も慌ててそちらへ向かった。
「行き止まりじゃなくてよかった」
マイキーは言いながらノブに手を掛け回してみるが、うんともすんとも動かない。次に扉を押したり引いたりしたがやはりびくともしなかった。
「鍵がかかってる。駄目だ開かない」
マイキーは言いながら小窓から向こう側を覗いてみた。先程通ってきた通路と同じ造りで少し先でT字路になっているため先は見通せなかった。
「何かみえる?」
エミコが心配そうに聞いてきた。マイキーは首を横に振る。するとハッピーがコリンの頭に駆け上がり小窓を覗いた。「ワタシならぎりぎり通れるな」ハッピーはコリンの頭を前足でワシャワシャこすり「ニャニャ!」と鳴きコリンを扉の前に誘導した。そして頭を小窓に突っ込み扉の裏側を見た。「ん、やっぱり両面共鍵が無いと開かないタイプの扉か」ハッピーは考えた。おそらくさっきの二人もじきに此処にくるだろう。ここまでは一本道だった。追いつかれたら今度こそ捕まってしまう。ワタシが向こう側へ行って様子を見たいところだがこの子達を置いていくのは心配だ。さてどうするか。悩んでいるとエミコが声をかけた。
「ハッピー、、行ってきて。私達なら大丈夫。このまま皆で此処にいてもじきに捕まってしまうわ」
ハッピーはエミコの方を見なかった。しかし二人の間で交わされた意思は幻では無い。ハッピーはエミコのエミコはハッピーの言いたい事が分かり確かに意思疎通が成された。ハッピーは人間の言葉がわかるがもしかすると人間や動物が分かりあうのに必ずしも言葉は必要ではないのかもしれない。エミコを見ているとそう思えた。ハッピーは何も言わず小窓に飛び込み向こう側へ降りた。そして振り向きもせず走り出した。
必ず助けを呼んで戻る。そう心に誓って。
マイキーとドクロ団の秘密 20
神殿ではドミニクがマイキー達を追いかけようとしていたがマギーが片手でそれを制した。
「まちなドミニク。いいさ。これで袋のネズミ慌てることはないだろう」
「ん、まあそれもそうだな」
ドミニクは立ち止まり一度深呼吸した。そして屈んでさっき噛まれた足をさすりながら言った。
「ふう。それにしてもあのネコ昼間に会ったヤツだろう。何でこんなとこまで追いかけてきてんだチクショウ」
「アタシだって知らないよきっとお人好しの猫なんだろう。それより団長は何処だい?アンタと一緒じゃあないのかい」
マギーは言いながら地下へ続く階段を覗き込んだ。
「ああ。団長は先にアジトへ戻っている筈だ。噴水広場で分かれた」
町のメイン通りの真ん中には噴水広場があり住人達の憩いの場となっている。
「そうかい、、ではアタシ達はぼちぼちこちらから追いかけようか。辿り着きゃあしないだろうが秘密を知られちゃ厄介だ」
マギーは目を細め遠くを見る様に階下を見つめた。
「そうだな。万が一ってこともある」
ドミニクは頷いた。
「ところで東の封鎖は上手くいったのかい?」
「ああ。作戦通り仲間がやっている。名簿にある住人は誘導して連れ去り無い者には林道の事故で通行止め。お帰り頂く」
「すんなりいくかね」
「もともと人通りなどほとんど無いからな。他の入り口も一応見張りを立てたがまあ誰も来ないだろ」
「ふむ。盤石だね。では行こうか」
二人は子供達を追いゆっくり階段を降りて行った。
「うう。怖いよーそれに少し寒くない?」
コリンはミイラの様に左右の手を胸の前でクロスし自らの二の腕をさすっていた。
マイキー達は階段を降り道なりに走っていたがしばらく経って振り返ると追ってくる気配がなかったので今は皆歩いていた。落ち着いて周りを見渡すとそこは床はもちろん壁や天井も石で固められており壁には数メートルおきにランプが設置されている。空気が止まっている様に静かで何処で水滴が落ちる音が地下道全体に響いていた。
「確かにヒンヤリするわね。少し汗もかいたし」
エミコは冷静を取り戻していた。自分の祖母がまさか自分を陥れるとは考えもしなかっただろうしショックを受けたであろう。しかしエミコは強く賢い女の子であった。気丈に振る舞うとというよりは起こっている事を受け入れ考え方をシフトチェンジしたようだ。
「そうだね。何処か休めそうな所を探そう」
マイキーは先程からのバタバタで皆疲れているので何処かで座り状況を整理したいと考えていた。ハッピーは警戒しながら一番前を歩いている。今もし前から他の誰かが来たら、そうあの時自分を眠らせた奴。最低でも三人は仲間がいる筈。あのドミニクとかいう大男は黒マントの片割れであろう。もっとたくさんいるのかもしれないし、、。今は考えても仕方ないが何故奴らは町の人を拐うのか。そしてこの地下道はいったい、、疑問は尽きなかったがあれこれ考えている内に広い空間に出た。
マイキーとドクロ団の秘密 19
ドミニクの後ろに現れた小さな影は音もなく彼に近づきその足に噛みついた。
「ぐぁ」
急に激痛がはしり低い呻き声をあげ思わず膝を折る。その隙に横を駆け抜けマイキー達の側に来た。
「ハッピー!」
コリンが思わず声をあげた。他の二人も驚いた様子でハッピーを見ている。
「どうしたんだいこんなところまで!僕の心配してきてくれたのかい!」
コリンは興奮してスンスン鼻をならしながら屈んでハッピーの顔を見た。
「まぁ違うとも言えないわね。そんなことよりアンタ達結構まずい状況よこれは」
ハッピーは言いながらマギーの方を見た。マギーは苦虫を噛んだ様な顔でハッピーを見ている。先程対戦し上手く逃げたと思ったのにこの猫なんでここにいるんだ。思いながら右の瞼をピクピク痙攣させた。
「驚いた。ハッピー私達をつけてきたのかしら。前から思っていたけどこの猫普通じゃないわ。賢すぎる。ねえハッピー私達の言葉がわかるんじゃない?」
エミコが急に核心をつく事を言ったのでハッピーは一瞬たじろいだが今そんな事を言っている場合ではない。不意打ちをくらったドミニクが立ち上がり三人を捕らえんとゆっくりこちらに近づいてきている。ハッピーは一番後ろにいたマイキーの足に体当たりし後ろに逃げるよう促した。マイキーは少しよろけたが思い出したように後退した。
「コリン!エミコ!退がって!」
言われて二人も動き出す。
「エミコ〜こっちだよーこっちへおいで〜」
言いながらマギーがまた一歩近づいてきた。今度は後ろのドミニクに目で合図を送り左右に分かれてくる。挟み撃ちにするつもりだ。ハッピーはフル回転で逃げる術を模索したがどうしても思いつかない。仕方ない玉砕覚悟でアタシが飛びかかり場を混乱させ後は運任せしかない。そう思った時すっかり怯えて縮こまっていたコリンが壁際に立つ神の像の足に躓き「あっっついっ痛いっ」と言った。それと同時に像が横に少しずれ、なんとその向こう側に地下へと続く階段が見えた。
「あっ!」
気付いたマイキーとエミコが同時に声を上げ更に同時にハッピーがその空間に飛び込んだ。
「さぁ!早く!」
ハッピーは鳴きその階段を駆け足で降りて行った。それを見たマイキーとエミコが像を横から押し隙間が十分空いたところに二人は飛び込んだ。
「え?あ。マ、マイキー!」
コリンが叫ぶ。
「早く!コリン!逃げるんだ!」
マイキーが階段からコリンを呼んだ。
コリンは慌てて像に手をつきながら空いた空間に飛び込み下で待つマイキー達に追いついた。
「さあ行こう!」
マイキーは皆に呼びかけながら先頭を行くハッピーを追いかけた。