窓から林檎の木を眺めていたなら

Chapter 06-1

二人が店内で話始めておよそ20分ティムはだいたいの事情を理解した。
このホームレスの男は5年前会社を経営していた事。面白い出会いを求め世界中に「これを見つけたラッキーな人ここに電話して下さい」といった文面のメモを置いた事。電話がかかってきたらその人を会社に誘うつもりでいた事。もちろんかなりの高待遇で。そしてこのメモを置いた3ヶ月後経営が急に傾きはじめ1年後倒産は免れたものの経営者としての責任を問われ辞職、全てを一気に失った彼は混乱し、体力気力ともに限界を迎え今こうして世捨て人になる事で精神の安定を保っているという事であった。ティムは話を聞いている内に自分がこの男の事が好きになっているのに気づいた。話の内容というよりは、仕草や表情それに妙に説得力のある声、自分には無い気品の様なものまで感じていた。
「話はわかったよ。大変だったな、偶然というか何というか、、まあ、その、楽しかったよ。俺みたいな平凡な人間にこんな事件がおこるなんて、、」さらに続けようとして一瞬ためらったがティムは言った。
「ありがとう」
外は眩しいくらいの日差し、店内はその光で白く満たされていた。
流れていく雲、ペンキの剥がれた屋根、信号待ちの車、井戸端会議中のマダム、どこかで子供の笑い声、世界にある全てに意味がある。そう確信したくなる一日であった。カラン、コロン、不意に店の扉から一人の客が入ってきた。
「おや珍しい、お客さんかいティム坊や」
近所に住む老婆で夕方になると食材を買った帰りにこの店に立ち寄り煙草を一箱買って帰るのであった。
「おい婆さんその呼び方はやめてくれって何回もいってるだろ」
「ヒヒッ坊やは坊やさ」

「まったく聞きやしない。頑固な婆さんだよ」
溜め息を吐きながら棚からいつもの一箱を取り老婆に手渡した。
「ありがとうよ。ところでそちらの方この辺では見ない顔だね、どこから来たんだい」
老婆は小さな鋭い眼差しで男を見た。