ちょっと月まで。- 約束編 雨 -

その日は雨が降っていた。

 

最後の授業を終え帰り支度をしていると教師が彼の側に来た。

「少し質問したい事があるから、放課後職員室へ来なさい」

そう言い放つと返事も聞かず立ち去っていった。

彼には何も思い当たる節がなく不思議に思ったが、無視するわけにもいかず、できるだけ平穏無事に過ごしたいので素直に行くことにした。

 

「失礼します」

 

ドアを開け一礼して中へ入り、自分を呼び出した数学教師を探した。入り口とは反対側の窓際、真ん中あたりにその教師の姿があった。

職員室は一日の授業を終えた教師達が談笑したりしていて割と賑やかだった。

 

 「あの。呼ばれたのできました」

 

我ながら変な言葉だと心の中で思った。

 

「ああ。南方君ごめんね急に呼び出したりして驚いたろう」

 

教師は何やらパソコンに向かい作業をしていた。

 

「いや実はこの間のテストの採点で君の回答に間違えてバツをつけてしまった箇所があってさ、それを謝りたくって。ホントごめんねー。近頃失敗続きでさ、こないだなんか近所のスーパーでさ、、」

 

「あの」

 

話が逸れてまったく興味のないエピソードを話し出したので遮ろうとしたのだが教師は話すのをやめない。今この場にまったく関係の無い話を延々と続けていた。

 

「あの」

 

もう一度言いさらに続けた。

 

「僕気にしませんし、済んだことなので。わざわざありがとうございます。もう帰っても良いでしょうか?」

 

それでも話すのをやめない。

彼は教師の顔を睨みつけた。すると馬鹿げた話とは裏腹に教師の顔がひとつも笑っていないのに気付いた。

真顔で冗談話をする教師の横顔を見てゾッとしたその時、教師がおもむろにパソコンのモニターを少しだけこちら側に傾けた。

思わずそちらに目をやると「南方宗介」と自分の名前が打ってあり、続けて文章が打ち込まれている。教師は相変わらず話し続けていた。

 

「南方宗介。貴方の事はよく分かっている。テストでわざと間違えたり、私が授業中する質問に分からないふりをしたりしているね。他の授業でもそうしているのでしょう。

この様な場合もっとドラマチックな演出で取り繕うのも面白いのだろが、まわりくどいのは私も好まない。

単刀直入に言う。

 

君はすべてを理解する者だね?」

 

彼の周りの空気が一瞬にして凍りついた。