ちょっと月まで。- 約束編 序 -

南方宗介には約束があった。

 

彼はごく普通の一般家庭に生まれ、特筆するような出来事もなく幼少期を過ごした。

というのは彼が意図的に造り出した「印象」であり、実際はその真逆であった。

 

彼は紛れもない天才であった。

 

彼自身がそう自覚したのは4歳の時で、その時から他の人や親にその事を悟られない様隠し通してきた。理由はその方が自分も家族も幸せに過ごせると理解していたからであった。

 

学校では、テストで適当に間違えた答えを書くなどして成績を調節したり、表情や仕草などにも細心の注意をはらった。

友達と遊んだり、グループで出かけたり、はたからみれば何ら変わりない一人の子供であったが、彼がもっとも苦労したのが恋バナで、この頃からすでに人を老若男女で認識しておらず、データの集合体としてみていたため、一切の恋愛感情が無く、周りの友達が照れたり高揚したりするのを見てなんとなく真似てはみるものの、かなり歪な表情であった。

 

そんな、普通を装うという「普通」とは正反対の生活を送っていた彼が高校2年の時、ある事件がおきた。

 

それは南方宗介がその天才を世に解放する事になる「誰も知らないincident」であった。